仮に、営業は受注し、開発は期限内に案件を終え、工場も生産目標を達成したとします。しかし納品した製品が顧客の用途に合いません。営業は仕様を引き継いだと説明し、開発は正式な変更依頼がなかったと答え、工場は承認済みの版どおりに作ったと報告します。
全員に、自分の仕事を完了した証拠があります。ただし、顧客が求める結果全体を誰が判断するのかは曖昧なままです。
こうした場面で、企業は調整力とストレス耐性の高い管理職を採用しようとするかもしれません。その前に、現在の制度が協力する人に不利な条件を作っていないかを確認する価値があります。
経営学の視点:期待と報酬が別の方向を向く
Steven Kerr は1975年、組織が望んでいる行動と、実際に報酬を与える行動が一致しない現象を論じました。事例を通じた分析であり、あらゆる企業に適用できるKPIの公式ではありません。原資料は末尾に示します。
以下はこの視点からの実務分析です。協力を求めても、昇進や報酬が部門ごとの短期数値しか評価しないなら、人は評価される仕事を優先する可能性があります。すべてが制度の問題という意味でも、個人が責任を負わなくてよいという意味でもありません。態度の問題と判断する前に制度を確認する、ということです。
部分的に合理的な判断が、全体を非効率にする
開発部門が期限内の案件完了で評価されるとします。完了後の現場支援は次の案件の時間を使います。その支援に資源も評価も付かなければ、断る方が部門の数値を守れる場合があります。
営業が受注額で主に評価されれば、未確認の納品条件を後工程へ残す可能性があります。工場が設備稼働率だけを見るなら、作りやすい品目の大量生産を優先し、急ぎの複雑な注文が待たされるかもしれません。
いずれも説明用の仮定であり、特定企業や業界への評価ではありません。KPIそのものではなく、他者に移った負担を単独の指標では把握できないことが問題です。
評価制度全体を変える前に、一件の出来事をたどる
最近の苦情や遅延を一件選び、引き継ぎを追います。各段階で、担当者は何を知り、何を決められ、何で評価され、次へ渡した後も責任を持っていたかを確認します。
「誰の連絡不足か」だけでは、会議を増やす結論になりがちです。「部門の優先順位が衝突したとき、最終決定できるのは誰か」の方が有効な場合があります。裁定の仕組みがない会議は、未解決の問題を知る人を増やすだけかもしれません。
情報不足と利害の衝突も分けます。前者には引き継ぎ資料、後者には責任、資源、評価の調整が必要です。同じ対策では、手順だけが増える可能性があります。
専門別の指標と共通の成果を両立させる
検討方法の一例は、部門固有の専門指標を残し、少数の共通成果と、犠牲にしてはいけない条件を加えることです。検証済みの標準モデルではなく、本稿の提案です。
営業は売上と商談に加えて、約束の実現可能性を確認したかを見る。開発は日程に加えて、納品後に繰り返す仕様問題を見る。共通成果として顧客の検収を確認する。品質と安全は納期のために無視してはいけません。
ただし、誰も影響を与えられない共通指標を大量に増やすことや、全員を一つの大きな数値だけで評価することも適切ではありません。個人責任が曖昧になったり、対立を避けるため問題を隠したりする可能性があります。情報源、制御可能な範囲、例外処理を明確にします。
火消しの多さだけで管理能力を判断しない
部門間の危機を素早く解決する力は重要です。しかし毎回一人の非公式な調整に頼るなら、その人への依存だけが強まり、仕組みは改善していないかもしれません。
面接では、繰り返した問題について、原因をどう特定し、責任分担をどう変え、不在時にも機能するようにしたかを聞きます。
不完全な情報で判断する力と、同じ問題が毎回自分に上がってこないようにする力を見ます。前者だけでは英雄依存になり、後者だけで目の前の問題に対応しなければ、チームの信頼を失う可能性があります。
採用前に権限を確認する
納期に責任を持つのに、資源配分、仕様変更、営業上の約束に影響できなければ、経験豊富な管理職でも催促を続けるしかありません。コミュニケーション研修だけでは解消しない差です。
本人が決められる事項、共同判断する事項、上位判断が必要な事項を整理します。共同判断では回答期限と意見が分かれた場合の裁定者も確認します。
Talent Nexus と職務を検討する際、この説明は「調整力が高い人」という要件より具体的です。候補者も、管理権限があるのか、結果を引き受ける義務だけなのかを判断できます。
指標変更後も副作用を見る
数値が改善したかだけでなく、新しい回避行動が生まれていないかも確認します。
苦情処理の時間短縮なら、早すぎる終結がないか。採用期間の短縮なら、要件確認が雑になっていないか。これらは設計時に検討できるリスクであり、後から担当者だけを責めるためのものではありません。
一つの業務で試し、管理職と現場の意見を残し、定期的に確認します。十個の指標を一度に増やすより、問題を次へ押し付けやすい引き継ぎを一つ改善する方が、効果を判断しやすくなります。
管理会議で確認したい問い
「社員が現在の評価と報酬に忠実に行動した場合、私たちが不満に思う行動を合理的に選ぶことはないか」と問うてみます。
もしあるなら、チーム精神だけを求めても不十分です。制度の調整と個人の明確な責任は、どちらも必要です。
研究資料と適用範囲
Kerr, S. (1975). On the Folly of Rewarding A, While Hoping for B. Academy of Management Journal, 18(4), 769–783。報酬と期待の不一致という中心的な視点を参照しています。指標の点検方法と採用質問は本稿の実務提案です。
原研究:Academy of Management Journal

